ある夏の日の夜のことでした。
その時私は部屋の電気を消してテレビの前のベットに背をもたせかけてテレビゲームをしていました。
偶々家に帰ってきた妹が明るいと寝られないと煩かったせいです。
その妹はベットの上で眠っていました。
一体何時くらいの事だったのか。
私はふと部屋の空気が変わった事に気が付いてボタンを押す手を止めました。
クーラーが効いて寒いくらいに涼しかったハズの空気が
何時の間にか生ぬるい湿気を伴ったものに変わっていたのです。
そのくせ、背中の部分だけはひんやりして(けれど何故か不快な)冷たいのです。
直ぐに「何かがおかしい」と頭に浮かび、同時に「まだ大丈夫」という言葉が浮かんできました。
「何」が「大丈夫」なのか自分でも分かりませんでしたが
私は自分の言葉を信じ、そのままゲームを続けていました。
というより、動くのが怖くて動けずにゲームで気を紛らわせていたと
言う方が正しかったのでしょうが・・・
それから数分ゲームを続けていた私は今度はゲームの画面がおかしいことに気が付いたのです。
何がおかしいのかよく分からずに私はプレイを続けながらじっとブラウン管を凝視していました。
そして、画面が切り替わる寸前その理由に気が付いた私は全身の毛を総毛立たせました。
真っ暗になったブラウン管が妹の寝ているベットの上に
座り込んでいる女の人を映し出していたのです。
その人は私とは背中合わせで俯いていた為、どんな表情をしているのかは見えません。
また、彼女の背中に隠されて、妹がどんな表情をしているのかも分かりません。
次の瞬間画面が切り替わり、背後の情景は見えなくなりました。
私は恐怖から後ろを振り返ることも出来ずに暫く呆然としていましたが
はっとして再びコントローラを操作してゲームを続けました。
後ろの人に、私が気付いたことを気付かせてはたくはなかったのです。
しかし、画面が切り替わるたびに真っ暗になったブラウン管に彼女の姿が浮かび上がります。
後ろ姿だけとはいえ、背中越しに霊が居るというのは充分私には恐怖でしたし
その霊が妹に一体何をしているのかも気になりました。
何度か切り替わる画面を注視しても彼女が一体何をしているのか
全く分からず私は思いきって背後を振り返りました。
「・・・・・いない・・・」
振り返った先に、ブラウン管に映っていた女の人は居ませんでした。
妹の寝顔も安らかで、特に魘されてはいないようでした。
ついさっきまで感じていた生ぬるい空気も、背中の冷たい感触も消えていました。
ほっとしながら私はゲームを続けました、が・・・
次に画面が切り替わった瞬間・・・
今度はこちらを無表情で見ている女の人と、ブラウン管越しに目が合ったのです。
「・・・・ひ」 思わず声を漏らした瞬間、視界が真っ暗になって次に気が付いたときにはもう朝でした。
誰がやったのか、ゲームもテレビの電源も消されていました。
慌てて後ろを振り返ると、妹は寝たままです。
「夢だったのかな?」 冷房で冷えた体をさすりながら何気なくベットに手をついた途端、
生暖かい、濡れた様な感触を感じて私は手を離しました。
丁度、その箇所はあの女の人がいた場所でした・・・
後で目の覚めた妹におかしな夢を見なかったかと聞きましたが特に何の夢も見なかったそうです。
あの女の人が誰だったのか、妹に何をしたかったのかは分かりません。
只、目があった時の無表情な顔は、きっと一生忘れないでしょう・・・
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