俺がまだ実家に住んでいた頃の話なんだが、
東京とは名ばかりのスゲー田舎町で夜ともなるとかなり暗いわけよ。
ある日、飲み会で遅くなり終電乗り過ごしちまって、タクシーで帰るかって事になったんだけどさ、
途中で何気に財布の中身を確認してみると、微妙に足りなさそうなのよ…
「やべーっ」
って思って少し手前で降りる事にした。
今考えてみると、家に着いてから普通に金取ってきて払えば良かったんだけどねぇ。
いや!!この後に俺が体験したことを考えると絶対にそうするべきだった…
少し手前で降りることになったとはいえ、利用してる駅の1つ手前だし、家までの距離は3km程度だ。
今は2月半ばだし、歩いて帰れば酔い醒ましには丁度いいだろうって感じ。
酔ってる勢いもあったし、余裕で歩き始めた。
家まであと半分くらいって所まで歩いたとき、俺の酔いはすっかり醒めていた。
寒い中歩いてきたから?途中なけなしの小銭で缶コーヒー飲んだから?
違う!!
このときの俺は自分に襲い掛かる凄まじい恐怖に心の底から怯えていた…
最初に感じたのは駅前から裏道に入り、500m程歩いた頃だった。
タバコを吸いコーヒーを飲みながら歩いていた俺は、
自分の右側からふと妙な気配を感じてパッと視線を巡らせてみた。
「…別に誰もいないな…やべぇやべぇ変なこと考えると怖くなっちまう」
俺は元々心霊関係の話は好きなくせに怖がりなので、
そのときに感じた気配をタバコの煙の所為にして再び歩き始めた、
するとまたすぐに気配を感じた…
「やばい!!こりゃマジかよ?!」
その考えを否定したくて俺はまた視線を巡らせた。
そこには電柱がポツンと立ってるだけだ…よくある街灯がついてる電柱で他にはなにもない。
「ハハハ…そりゃそうだよな今まで20年以上生きてきて一度も霊体験なんてしたことね~んだ」
そんな事を考えているうちに次の街灯の前にさしかかった。
「…ぃ…ぃ…」
微かに女の声が聞こえたような気がした、
今度は待ったなしだ!!俺はスゲー勢いで走り出した。
しかし走っても走っても街灯の前にさしかかると、
必ず右横の電柱から女の声とヤバイ気配がビンビン伝わってくる。
しかもだ!!事態は悪い方向に向かっているようだった…
今まで街灯の前にさしかかったときに感じていた気配と声が姿形を伴いだしやがった。
走っている俺の視界にはもちろん前方の電柱が入る…
何個目かなんて覚えちゃいないが、とにかく見えだしたんだよ。
電柱の脇で上から降り注ぐ街灯の白い光を浴びて佇む女の姿がさ…
その横顔には黒く長い髪が悪夢のように垂れ下がり、女の表情を窺い知ることはできない。
「………!!!………」
もう頭の中は真っ白、すぐさま脇道に入り比較的明るい大通りへと出るべく走り出した。
脇道に入った瞬間、耳元で女の声が響いた!!
「逃…がさな…い」
それは呟き声なのに振動を伴う程のとんでもない大音響だった。
実際近隣の家の人が出てきてくれるんじゃないかと期待したほどだ。
しかし俺には来るか来ないか判りもしない救援を待つ余裕はなかった。
ひたすら大通りに向かって走り続ける。
「おかしい…大通りが遠すぎる…」
次の瞬間俺の前に現れた光景は、俺の気力を根こそぎ奪うのに十分な威力を持っていた。
俺が入った脇道は途中で分岐点はあるものの真っ直ぐ走れば大通りに行くしかない道…
「俺はなんで元の裏道にいるんだ?!」
前方に見える電柱、街灯、そして女…
いや!!違う!!女の顔が違う!!こっちを向いてる…?!
「キィィィィィ…キィィィィィ」
不快な金属の擦れる音とともに女は恐怖に立ち尽くす俺の元へとやってくる。
「何の音だ?!うわ?!」
音の正体がわかった俺は失神しそうになった…
バイクのマフラーだ…ハンドルだ…女の体には無数のバイクの残骸が突き刺さっている!!
垂れ下がったそれらの部品の一部が、アスファルトを擦っている音だったんだ。
青白い女の血まみれの顔が俺の目の前に現れたとき、俺は失神した。
意識を取り戻したのは駅前交番の長椅子の上だった。
自転車でパトロールをしていた巡査が電柱の下で失神している
俺を発見、ここまで運んでくれたということだった。
しかしその巡査の話を聞いているうちに、俺は再び恐怖に襲われた…
俺はタクシーを降りた駅前から裏道を500mほど進んだ電柱の下で倒れていたというのだ。
俺は最初にヤバイ気配を感じたあの場所から、少しも家に近づいてはいなかったのだ。
あれほど走り続けたのに…
最後に巡査が言った…
「しかしバイク事故現場の花束の中に倒れていたからねぇ…後追いか?!なんて思っちゃったよ。
本当に事故の被害者の関係者とかじゃないの?」
俺にとって一番洒落にならないのはこの出来事のあと、
それまで縁のなかった霊体験を頻繁にするようになってしまった事なんだが。
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