隙間男 ~怖い話 体験談~

一人暮らしにも慣れた大学二年の夏休み、急にエアコンの調子が悪くなった。

修理を呼ぶのがなんとなくめんどくさくて、扇風機でごまかしてはいたけどさすが東京の夏、

尋常じゃない暑さ。

部屋から出ると逆に涼しく感じたくらい。

思い切って大家さんに電話してエアコン修理をお願いしてみたけど、

いまの時期忙しいらしくて修理は三日後だという。

そこで私は友達の由佳里に事情を話し、

涼しさほしさ由佳里ん家に三日後の修理までの二日間お邪魔することにした。

楽しみだった。

由佳里とは大学の語学のクラスが同じで、優しくて意志のはっきりしてる性格になんか惹かれて友達になった。

一年生のときは家の行き来とかよくしてたけど、

お互い彼氏ができてから(私は最近別れた)はあんまり行かないようになった。

行っても泊まりはNGみたいな。

だから久々の由佳里ん家の泊まりが楽しみだった。

学校が終わって近くのスーパーで買い出しして、由佳里ん家に到着。

さっそくエアコンをつける。

私「あー-…涼しいー部屋ん中ってこんなに涼しかったっけー?」

由佳里「もーよく耐えてたね、私だったら故障初日に即電話だね」

やっぱり由佳里といると楽しい。

サバサバっていうより思い立ったら即行動って感じが一緒にいて気持ちいい。

夕飯だって迷ってる私をみて、由佳里は

「もー食べたいもの食べようよーんじゃ今日は焼肉かな」

そんで今はハラミ焼いてます、なんて。

お腹一杯食べてTV観ながらふたりでゲラゲラ笑う。

お風呂も借りて、ふたりですっぴんてのも久しぶりで面白い。でもやっぱり由佳里は綺麗だ。

ショートヘヤにくりくりした目、笑顔もかわいくて私が男だったらイチコロだ。

時計に目をやると

AM0:20

明日は揃って二限だからそろそろ寝ないと…

なんて思ってると由佳里が敷き布団とタオルケットをベッドの下から出してくれた。

ベッドの下にはあと毛布と冬用掛け布団が綺麗に畳まれていた。

電気も消しておやすみ…

なんてわけにもなるわけなく、ふたり一斉に語り出す。

この時間がホントに好きだ。

サークルの話

バイトの話

地元の話

そして恋話

由佳里といると話しても話し足りない。

でも今日はなんか違和感があった、

由佳里があんまり恋話に興味が無いってか自分のこと話そうとしないというか…

私「ねぇ由佳里、達哉君となんかあった?」

由佳里「……友達の友達が妊娠したって話聞いたんだけどさ…相手がどうも達哉みたいで…」

私「え………」

由佳里「あいつ…裏切ったのが許せない………いなくなればいいのに…」

外が少し明るくなるまで由佳里の延々と続く呪いの言葉を私はうつらうつら聞いていた

絶対許せない――

――いなくなればいい。

という由佳里の言葉がやけに耳に残った。

朝日で目が覚めると由佳里はまだ寝ていた。

私が起きるとすぐに由佳里もゆっくり元気なく起きた。

全然眠れていないようで目の焦点が合っていなかった。

由佳里「私、今日、学校休むね…」

私「わかった。私、学校終わったら直接バイト行くから、帰るの24時頃になっちゃうけど大丈夫?」

由佳里「いいよ」

私はひとり、学校へ向かった

(由佳里大丈夫かなぁ…全然元気ないし…)

由佳里のことが頭から離れない、バイトも全く手につかない。

店長に久しぶりに怒られたけど、そんなことはどうだってよかった。

(早く帰らなきゃ)

電車が遅い

私「ただいま」

由佳里「おかえり」

(なんだ…意外と元気じゃん)

私「由佳里、大丈夫…?」

由佳里「実はね…今日、達哉とはいちお別れ話をしたんだけどね、

全然動きなくて。で、なに聞いてもしゃべらなくなったから、もう…いいや、って感じ」

私「そうなんだ…別れたってこと?」

由佳里「んー-…まだどうしたらいいかわかんないよ

―――わかんないよ」

由佳里の表情がギクシャクしてる、変な笑い方してる…

時間も時間だったので、もう寝ることにした。

由佳里も疲れてたみたいですぐに眠っていた。

――おやすみ

だれに向けてでもなく呟いた。

ザザー

それから2時間くらい眠ったのか、不意にエアコンの冷気で目が覚めた。

エアコンのリモコンを探したが見つからない。

(ううーエアコンの風寒い…風邪ひくよー)

私はベッドのしたの毛布を引っ張り出した。

(あったか~い。今日くらいは温暖化気にしな…)

私は視界の端に何か捉えた。

ベッドの下に人の足が見えた。

さらに横たわるの人の手と、それに握られた包丁が見えた。

(!!!!!!!!!!!!!!!!!??)

私「ねぇ由佳里!!起きてよ!!エアコンの温度上げて欲しいんだけど」

由佳里「んんぅー-…?リモコンどっかそこら辺にない??」

私「ないよ!てか私お腹減ったから、なんかコンビニ行こ!!起きてよ!!」

由佳里「なによー眠いよー-…」

私は由佳里の体を無理矢理引っ張り起こし、急いで玄関を出た

由佳里「どしたのー急に?」

私「……ベッドの下に男いたよ……男かわかんないけど包丁持ってる、

早く警察呼ぼうよ!!あ!!ケータイ忘れた由佳里ある??」

由佳里「ないよ…」

私「早く逃げなきゃ!!コンビニ行って助けて貰おうよ」

由佳里「なんもないよ…ベッドのしたには」

由佳里の瞳が濡れていた

私「由佳里…?どうしたの?」

由佳里「いいよ…電話しないで帰ろう」

私「嫌だよ、怖いよ、絶対いるんだって!!」

由佳里「いいよ…早く帰ろう」

私「なんで………由佳里。」

その時、私は由佳里の言葉を思い出した。

――全然動きなくて。

なに聞いてもしゃべらなくなった

もう…いいや

私「なんで………由佳里。」

由香里「だって……

―――だって警察呼んだら、私捕まっちゃうよ……。」

由佳里の涙が月明かりに照らされていた。

由佳里はやっぱり優しい。

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